日記・コラム・つぶやき

盟三五大切(ネタバレあり)

花組芝居創立35周年記念公演

第一弾 花組ヌーベル

下北沢小劇場B1


原作:四世鶴屋南北

脚本・演出:加納幸和


キャスト:

冨森助右衛門/古道具屋はしたの甚介/十二軒の内びん虎蔵/夜番太郎七:山下禎啓

家主くり回しの弥助実は民谷中間土手平/賤ヶ谷伴右衛門実はごろつき勘九郎:八代進一

徳右衛門同心了心/船頭お先の伊之助/役人出石宅兵衛:北沢洋

回し男幸八/判人長八実はごろつき五平/里親おくろ:磯村智彦

薩摩源五兵衛実は不破数右衛門:小林大介

船頭三五郎実は仙太郎:丸川敬之

芸者小万実は民谷召使いお六:永澤洋

若党六七八右衛門/芸者菊野:武市佳久


素敵だった!

流石、花組芝居!と思った。


 歌舞伎でもこの演目は何度か観ている。

 花組芝居では13年振りの再演。前回もその前のリーディングも観ている。

 ストーリーだけ追うと結構とんでもない話で、悲惨だし、ちゃんと確認しなさいよ(-_-;)とちとイライラしたり、あれだけ残虐非道をしておいてそれでも数右衛門殿は仇討ちに参加出来るんだ😓と苦笑したり・・・(ま、そのために周りは命を捨てているのだから、行ってくれなきゃ余計切ないことになるんだけど)。

 それでも観ていると引き込まれて面白いし、泣かされそうにもなる。つくづく歌舞伎とシェイクスピアって似てると思ってしまう話の一つ。


 で、花組芝居版。

 歌舞伎で通し上演をやったら何時間かかるんだ?(コクーン歌舞伎ではギュッと詰めてたけど)という舞台を、殺陣有り、お遊び有りのてんこ盛りなのに、2時間弱?できっちりまとめてしまう。今更驚きはしないけれど、やはり凄いと思う。


 現代のお通夜風景、舞台の周りには観客からの供花が並び、黒のスーツをそれぞれにすっきりと着こなした役者さん達が挨拶し合うシーンから始まる。開演前は裏返してあった故人の写真は水下さんで、水下家のお通夜という体。

(ちなみに入口の受付の方々も喪服姿、グッズにはお香典返しが並んでた😅 黒仕様で来る観客も多かった。自分を含む 笑)

 ビールで献杯、テレビでは5年前の「いろは四谷怪談」が流れ、スマホで呼び出されて出ていく人もいる。何故か電子レンジもある。

 そして一旦全員がはけた後、一瞬のプロローグ、暗転して時代が飛ぶ。


 セットも衣装もそのまま。鬘や若干の小道具はあるが、あとは役者さんの技量のみで世界が変わる。ものの見事に。


 大体、その鬘だって、何じゃそりゃ?と首を傾げるような代物、月はヤカンだし、小万は狂言自殺で電子レンジに頭を突っ込むし、太郎七はランドセル背負ってるし、ラスト近く、源五兵衛が小万の首を前に飯を食う凄絶なシーンも、食す飯はレンチンしたパックご飯だ。

 そこに歌舞伎の柝の音が響き(役者さんが打つ)、血飛沫を模した赤い投げテープが飛ぶ。


 こう書き連ねると自分でも巫山戯ているようにしか読めない😓

 が、違う。間違いなく「盟三五大切」通し上演。

 愚かだなぁと呆れたり笑ったりしつつも、惹き寄せられ、泣かされる人々の世界。

 それも小難しい訳ではなくて、かなり可笑しい。

 役者さん皆様、性別、年齢、時代まで縦横無尽、軽やかにヘンテコなこともやってのけて可笑しいから余計切なくもなる。

 スーツ姿、格好いい!と思いながら、武士にもごろつきにも芸者に思えるのは、なんとも豊かなことだなぁと改めて思う。

 勿論、私は花組芝居の舞台をかなり観ていて加納さん演出に馴されてしまっている所もあるし😅、歌舞伎も観ていて話を知っているせいもあると思う。

 もしかしたら知らないと何がなんだか?になったのかも知れない。だからなのか、今回は毎回前説に加納さんが出てらして、このお話の概要、四谷怪談、忠臣蔵との関係性、このお話が出来た裏事情などを解説して入り込み易くされていた。


 役者さんは皆様、素敵だった。


 源五兵衛の大介さんは前半がまあ、可愛い可愛い 笑 根がお坊ちゃんで純粋培養だったのか、君は?と苦笑するくらい小万さんにメロメロ😅 真面目な武市八右衛門の諫言も聞いちゃいないし。大介さん、最近ますます可愛らしい役もお似合い 笑 

 その分、血飛沫を模した赤い糸を纏わり付かせた惨殺シーンは凄まじかったし、小万の首を前に飯を食うシーンは凄惨だが切なかった。殺陣は格好良かった!


 三五郎の丸川さん、いつの間にこんなに格好良くなったんだ?と思うくらい、すいっと若々しい色悪な雰囲気がとても素敵だった。永澤小万さんとイチャイチャする様もお似合いで 笑、何度か素っぽい話し方になる所と元に戻る切り替えもさり気なく自然で良いアクセントになっていた感じ。桂さんに泣かされ、水下さんに「トイレで泣け!」と言われたエピソードが本当か嘘かは不明だが、八代さんとの会話の流れも良くて ‘水下さん’ がすんなりお芝居に入ってきてた。

 

 小万の永澤さん、キュートだった。お声も艶があって、婀娜っぽさというより小悪魔?と思うけれど少々清々しさが勝っているような雰囲気も丸川三五郎に合ってる感じで良かった。何度かもりもりご飯を食べていて、おお〜?と思ったあとで、そりゃ、若い男子なんだから当たり前だよなと可笑しかった。しかし32歳になるって、それこそ、おお〜?であった😅


 旦那様に一所懸命に尽くしても報われない真面目な八右衛門さんな武市さんも良かった。まれに大介源五兵衛さんと仲良く話してるシーンは微笑ましかったし、丸川三五郎に体よくあしらわれる様も可愛かった😅 菊野さんも可愛かったが、菊を頭に付けて菊野ってそれはこの前の朝顔な永澤さんとおんなじじゃん、とチラッと思った 笑

 ついでに小万に夢中な源五兵衛殿にため息をつくシーン等、シャンソマニアⅡのカーテンコールで「洋君ばかり見てないで、僕も見てください!」と大介さんに直訴していたヨサク君が重なった😅


大介さん、丸川さん、永澤さん、武市さんが4人揃っているシーン、おお、富姫様二人と図書様二人だ〜と思ったりした 笑


 山下さんは、貫禄ある冨森殿から謎の小学生?太郎七殿まで、なんかもう・・・自由自在。「水やん」と言いながら添い寝するところはさらっと泣かされそうにもなるが、太郎七さんはもう奔放過ぎて酔っ払い姿とか思い出しても笑ってしまう 笑


 北沢さんはちゃっかりした船頭さん、心許ないお役人😅、そして忠義者の三五郎父とニコニコしながらご活躍。初日は台詞が飛んでしまった小万さんのフォローを、ええぃ、とにかく、という感じで強引に進める勢いに見惚れた 笑


 ベテラン勢に囲まれながら、小万さんに顎で使われる幸八さんとかおくろさんとか着実にこなす磯村さん、どこか困ったような愛嬌が素敵 笑


 そして、花組芝居の舞台は5年振りな八代さん。舞台自体はあちこちで観てはいたけれど、花組芝居で拝見するとまた格別。しなやかさ、軽やかさ、バババ伴右衛門殿 笑 の強気と弱気が同居して見えるような雰囲気、マシンガンを撃つ姿に見惚れた 笑

開き直った土手平殿のワル振りも良かったが、その前の幽霊での困惑振りも楽しかった。初日は劇場に入って右側の席にしたら、八代さんのお役の数々がよく見えて、つい追ってしまい、土手平殿が亡くなっても色々お働きだったりすること等も楽しんでしまった😅



【あらすじ】

 自分の落ち度で盗まれた金を戻すことで塩冶家の仇討ちに加わることが出来る不破数右衛門は残りの百両の工面に苦心していた。

 若いうちに勘当され主の顔も知らない仙太郎も数右衛門のために金を集めていたが、彼は妻お六を芸者にして源五兵衛という浪人に貢がせていた。

 そして源五兵衛が叔父から受け取った百両をまんまと騙して手に入れるが、怒りに燃えた源五兵衛が襲ってきて彼らの仲間を皆殺しにする。


 危うく逃れた仙太郎とお六だが、引越し先で見つかってしまう。しかし、先の殺人の咎で役人が源五兵衛を捕らえにくる。が、源五兵衛小者の八右衛門が罪を被って捕らえられる。一旦は帰った源五兵衛だが、仙太郎が留守の時に再び現れ、お六を殺し、首を持ち帰る。


 そこへ仙太郎の父が、仙太郎が偶然手に入れた師直家の図面を持ってやってくる。彼は先に仙太郎が入手した百両も届けていた。


 源五兵衛は実は不破数右衛門。仙太郎はそれとは知らずに主のために主を騙していた。腹を切って姿を見せた仙太郎は、数右衛門の罪は自分が被ると告げる。

  数右衛門は仇討ちへと向う。

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親の顔が見たい(ネタバレあり)

渡辺源四郎商店第36回公演 
下北沢 ザ・スズナリ
5月6日マチネ観劇
作・演出:畑澤聖悟
キャスト:
森崎次郎(志乃の父):各務立基
森崎雅子(志乃の母):山村崇子 (青年団)
長谷部亮平(翠の父):佐藤 誠 (青年団)
長谷部多恵子(翠の母):森内美由紀 (青年団)
辺見重宣(のどかの祖父):猪股俊明
辺見友子(のどかの祖母):羽場睦子
八島操(麗良の母):根本江理 (青年団)
柴田純子(愛理の母):山藤貴子 (PM/飛ぶ教室) 
井上珠代(道子の母):東さわ子 (劇団東演)

中野渡治江(校長):天明留理子 (青年団)

原田茂一(学年主任):近藤 強 (青年団)

戸田菜月(2年3組学級担任):折館早紀 (青年団)
遠藤亨(新聞配達店の店長):三上陽永 (虚構の劇団 ぽこぽこクラブ)  

 

今頃ようやく書いている😅

 東京楽日を観て、それから配信を終了ぎりぎりの5/31にもう一度観た。

 お芝居としてはとても良くて引き込まれるのだが、精神が脆弱な私などには話がエグすぎて再度観るには少し冷却期間が必要😓、という舞台。

 昨年は直前で劇場公演は中止になってしまい配信のみになったのだが、それも観た(及び腰ながらDVDも購入。陽永さんがご出演なのでね😅)。

 その時は、お芝居、役者さんの巧みさに引き込まれたものの、展開のエグさに感性が硬直してしまい、あまり色々考えられなかった。

(そういう方も多いように思うが、自分も中学1年の時にイジメに合っていたので尚更。はるか昔で今よりも虐め方は単純だったと思うが、今でも確実に影響は残っている。)

 でも、今年はキャストが変ったせいか、心構えが出来たせいか、もう少し色々なことを勝手に考えながら観ていた。

 名門女子中学で、自殺した生徒の遺書に名前があった5人の生徒(イジメの加害者側)の親が集められて話し合う展開なのだが、自分の子供の無実を信じて守ろうとする親達、と書くと美しく思えなくもない。

 だが、傍で観ているとヒトの無自覚な暗黒面全開。

 いや、別に重苦しいだけの芝居ではない。親達の行動はその辺でもよく見かけるような何気ない日常会話のノリだし(チラチラとマウント合戦があるのも日常だろう)、思わず笑ってしまうような行動も度々出てくる。

 役者さん皆様さすがで[やらないだろ、普通😅]というような行動もすんなり飲み込めてしまう。

 でも、だからこそ怖くもなる。

 本人も半信半疑、軽い気持ちで言い始めたことが他者の同意を得て勢いを増し、あたかも正論のようになって自らの正当性、権利を主張する。相手の小さな落ち度を論い、論点をすり替え、持論を押し通す。

 形は違えど同じことが子供達の間でも起こっていたのだろうと想像してしまう。親を見ながら子供が透けて見える気がする。役者さん達が見事に自然に体現されるので、わかっていてもやはりゾッとした。

(昨年、同時に配信された「ともことサマーキャンプ」は役者さん達が親と生徒の両方を切り替えながら演じていたのでもっと印象がえげつなかった。)

 そして、昨年観た時はあまり引っ掛からなかった学校の先生達の言動が今年は何だか気になってしまった。

 自殺した自分のクラスの生徒を自ら発見して壊れそうになっている戸田先生はともかく、校長も学年主任もあくまで誠実そうな雰囲気を醸し出しているが、一時は遺書を隠すことに同意し、状況が許せばイジメはなかったことにすらしかねない感じだった。

 事件当日で一時的に混乱していただけかも知れないけれど、人々が声の大きい人の意見に引っ張られる様をまざまざと見せつけられた。

 そして、先生達はその後も何処か他人事(自分は部外者である)という雰囲気を感じてしまった。この問題にもっとも適切な対応を職務として模索しているだけ・・・

 と自分で書いていて、あれ?そりゃ、そうか、と急に思った。

 先生は仕事だ。生徒を教育するというとても特異的で責任も重い職務だけれど仕事には違いないし、校長や学年主任となれば他の生徒達も学校自体も守らなければならないだろう。何処かドライさを保たなければ出来ないことかと、今、思った。

 ここの所を考え出すと学校教育の範疇、教師の職務とは?などと舞台の感想の範疇を越えてしまうのでこの辺で😓

 その点、新聞配達店の店長は単純に道子さんのことだけ考えることが出来る。彼のストレートな怒りや悲しみの発露はこのお芝居の中で一筋の光のような救いに感じた。いかにもヤンキーな外見と怒鳴り散らす様には迫力があったが、そのくせ、一通り主張し終わるときちんと挨拶して証拠の遺書も預けて去っていく。「親の顔が見たい。」は彼の言葉だ。

 そもそも陽永さんがご出演なのもこのお芝居を観る動機の一つだったので、そういう役で嬉しかった。

もう一つ、各務さんがお元気そうにやや気弱そうなエリートさんを演じてらしたのも嬉しかった。

 それにしても、やはり最後に学年主任さんが長谷部夫妻に「翠さんは良い子です。」と仰る意図は何なのだろうと思う。

 表面的には両親を慰めているのだろうと思うけど、単体でみれば "良い子" が集団になると同級生を自殺にまで追い込むことがあるという世の中の構図を示しているのか?

 これは昨年観た時からなのだが、ラストの長谷部夫妻の言葉はちょっと「三人姉妹」の「生きていかなければ」が浮かんだ。

 
【あらすじ】
名門カトリック系女子中学校である星光学園の一人の生徒がいじめを苦にして自殺し、遺書に名前が書かれていた5人の生徒の親達が招集された。
遺書の最後に彼女達の名前が記されているだけで虐めの加害者とは書かれていない。
徐々にお互いに話し出した親達。
自分の子がそんなことをするはずがない。子供を守らねば。そもそも自殺した子の親はパートで稼ぐような学園にそぐわない家庭環境、その子もアルバイトをしていた。
等と非の在り所を相手に求め出す。
担任や年下の友人に届いた遺書をスキを見て燃やしたり飲み込んだりして遺書自体を隠蔽しようともするが、遺書はバイト先の店長にも届いていた。
怒りを抑えきれずに乗り込んできた店長が、自殺した生徒が援交までさせられていたイジメの数々を暴露し、彼女に謝れ!と怒鳴りつける。
さらに自殺した生徒の母親が訪れ、鋭い言葉を投げつける。彼女の元にも遺書が届いていた。
親達の話し合いの主導権を握っていた他校の教師である長谷部父が実は娘の何も見ていなかったことを長谷部母(彼女も教師)が暴き、本当に気づいていなかった他の親達もようやく事態を飲み込み、子供の元に向う。

放心したような長谷部夫妻だったが、それでも「簡単に罪を認めてはいけない。」と今後の対策を練り出す。この先、生きていくために。

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「光垂れーる」紀伊國屋ホール(ネタバレあり)その2

その2は、それこそ勝手な思い入れを書き連ねるので本当に悪しからずご容赦下さい😅

(キャストやあらすじは、その1にあり)



まず、その1に書いていない好きだったシーンを思いつくままに羅列。


前説。

基本はサカモンさんと玄太さん(初日だったかな?はチラッと陽永さんも。)

紀伊國屋ホールでもいつもの調子のお二人に嬉しくなった。

サカモンさんの物販宣伝、玄太さんの「ハッピーターン!」も見ることが出来た 笑


さらに楽日はぽこぽこメンバー5人で前説。これも嬉しかった😄

初の紀伊國屋ホール公演をやるに当たって想像していなかった苦労話とか、名前が「ぽこぽこクラブ」ではなかったかも知れない話とか、予想以上にお話が聞けて楽しかった。



クロちゃんに向かって「イケメンで若くて、俺より滑舌がだいぶいいからって・・・」と言いながら自分で落ち込む真ちゃん 笑

怒っているようでどこか優しさも見えるサカモン真ちゃんの、自分の気持ちにも真っ直ぐな様子がとても良かった。

歌うシーンも素敵だった。



蘇りを良しとしない登美子さんが、彼女の認知症の進行を危惧した三宅さんが今のうちにと独断で神様に頼んで蘇った千可子さんに対して、自分の考えを説明した上で「でも、悔しいねぇ、あのジジィ、やっぱり嬉しいもんは嬉しいや」と千可子さんを抱きしめるシーン。

その様子を後悔、安堵、同調?色々綯い交ぜになったような表情で見つめて頭を下げる陽永三宅さん。泣かされた。

やはり役者な陽永さんには引き寄せられる。


認知症症状が時々出てる登美子さんと三宅さん、蘇ってからはそこに千可子さんを加えた3人のやりとり、可笑しいのと切ないのがすごく巧みに組み合わされていて、本当に笑いながら泣かされそうになって困った。

大沼さん、小山さん、お二人ともチャーミングで男前。



消火活動後、諭さんと富士夫さんが飲むシーン。

父に向かって握手の手を差し出す玄太諭さんのぶっきらぼうに照れた表情がとても微笑ましかった。

40歳な玄太諭さんとべーさん富士夫さんのやり取りがお二人ともすごく良い雰囲気で、「父親と親友に。」というような台詞は、陽永さんがご自身で言いたかった言葉かな?なんて勝手に想像してまた泣かされそうになった。


富士夫さん御一家、木村さん弥生さん&辻さん翠さんはどちらもやはり母娘だなと思わせるおおらかさと強かさがあったし、良い御一家だと思う。弥生さんを信用してるから(信用しすぎな気もするぞ😓)、死んだ自分が居なくても大丈夫と考えてしまい、ああいう考え無しに見える行動になるのかな、富士夫さん😅

にしても、弥生さん、どんなお仕事してるんだろ?

40歳の息子はウーバーイーツでバイト、娘(も30歳にはなってるよね)はインフルエンサー目指して修行中って・・・大変ですね、と頭の片隅で思ってしまった・・・



ダンスシーンはどれも見応えがあって素敵だった。

楽日のクライマックスのダンスシーン、いつもはべーさんから始まって順々に全員を観ていたのだが、陽永さんのこのダンスはクラファンリターンのDVDでは見られない!(演出だけで、出演してなかったから)と気づいて(遅い、遅過ぎるぞ、自分😓)、ロックオンして凝視してしまった 笑



さて、次は色々考えてぐるぐるしていること。

勝手に悶々としてるだけなので、お気になさらず。



寝太郎さんの存在。

しょっちゅう眠っていて、起きると、夢で今度もお姉さんを助けられなかったと嘆いている。まるで萩尾望都さんの「酔夢」のような無限ループ。

このお芝居で”夢”は死者と生者の世界を繋ぐモノだ。夢は存在していない側の世界が見える。

寝太郎さんは蘇ったものの半分くらいは死者側に存在が残っているということだろうか?

彼の存在の意味は何なのだろう? 

ずっと考えている。そこを掘り下げても面白い話が出来そうな・・・



クライマックスのダンスシーン、ウエディングドレス姿の3人がいるのに途中メインで踊る女性は別な人達というのがちょっと勿体ないような気がした。いや、皆様、素敵だったので良いのだけれど。

それに「真ちゃんを好きなのはずっと変わらない!」と明言した明美ちゃんとなら、真ちゃん、やはり冥婚式をやって良かったのでは?と思ったりした。

(前バージョンでは明美ちゃんと真ちゃんも冥婚式をしている)



ツクモンは何故、瑞穂さんに「父だ」と名乗れなかったのだろう? 瑞穂さんが成仏すると決意するまでは言えないという制約でもあったということか? いや、でも瑞穂さんが成仏しなかったのは父親を探していたからだと思うので、だったら告げればそれで済むはず。

付喪神となった自分は成仏出来ないから隠していたのかと考えていたが、今回は最後に瑞穂さんと一緒に行くしな。

告げずに瑞穂さんが自ら気づけば魔法が解けて成仏出来る、みたいなものか?

(と、勝手に設定を創っていくのである😅)



最初のシーンの後、客席通路を歩いてきて舞台前まできて語り出すべーさん。

それ自体は素敵。素敵なのだが、あの一連の台詞を語る役者さん(べーさん)が瑞穂さんのお父さん役でもあった前バージョンはとてもしっくりきた。


でも、今回、べーさんは瑞穂さんのお父さんではなくて諭さんのお父さんだ。

最初のナレーションを語り部としてべーさんが語るというシーンが悪いわけではないのだが、なんかモヤモヤした。


そして、この時、べーさんが来る結構前から「光垂れーる」のタイトル幕?が下がっていて、風に煽られるように揺れていた。ちと意図がわからなかった。

それと「一筋の光」の台詞で射す光が一筋ではなかった。とても美しくて良かったのだが、チラッとあれ?とも思った😅



今回版は、喧嘩別れで死別してしまった大きな父親に対する諭さんの、引け目と憧れとが交錯した想いの行方が一つのポイントなのかなと思う。

諭さんと富士夫さんの関係性のところは、弥生さんとのやり取りも含めて良い感じだったし、瑞穂さんとの関わり方も、富士夫さん御一家の側から見ればなるほどと思う。


一方で、神様と瑞穂さん、として見ると、瑞穂さんのために蘇りの村まで作ってしまうツクモンが、どちらかというと村人達の一人くらいな大きさの印象になってしまい、ちと勿体ないような気がしてしまった。

クライマックスの祭りを仕切るのもべーさん富士夫さんだし。


それと、台風のとき16歳なら諭さんとさして歳も違わない。限界集落の村なのに、何故に瑞穂さんを知らないんだ、諭くん、弥生さん😅

(前バージョンでは瑞穂さんは諭さんの初恋?の人だった)


弥生さんと登美子さんだって、そんな村の消防団長みたいな人の妻と地元酒屋さんなら間違いなく知り合いでしょう。クライマックス前にチラッと交流シーンがあるけど、お二人のやり取りももっと見たかったような。ま、これは時間的に仕方ないかと思うけど。



神様と瑞穂さん、諭さん&理沙さんに富士夫さん御一家、真ちゃん&明美ちゃんとクロちゃんや大田原軍団、登美子さん千可子さん母娘&三宅さん、山田先生とその生徒達、オムニバス形式で話があって、最後に繫がる、というようなぽこフェス舞台をやって欲しい。

(観るだけの奴は勝手なことを思う 笑)




なんて書き連ねた諸々は、前バージョンを観ているから感じることだと思う。


今回だけを考えれば、それぞれの繋がりも上手く纏まっていて、笑えて泣けて、超常的な事から社会問題的な視点まで盛り沢山なぽこぽこクラブらしいお芝居だったと思う。

紀伊國屋ホールで観ることが出来て良かった。

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「光垂れーる」紀伊國屋ホール(ネタバレあり)その1

ぽこぽこクラブ vol.8
紀伊國屋ホール
3月3日夜、3月6日昼他(笑)観劇


作・演出:三上陽永
キャスト:
村上諭:高橋玄太
滝沢理沙: 長尾純子
村上富士夫:渡辺芳博 
村上弥生:木村望子
村上翠: 辻捺々
神様:外波山文明
渡辺瑞穂:橘律花
山田主:杉浦一輝 
壇登美子:大沼百合子
壇千可子:小山あずさ
三宅耕三:三上陽永
篠原明美:湯浅くらら
大田原真ニ:坂本健 
黒岩猛:斉藤陽葵
 
紫杏:紫音琉花
東田:西田雄紀
北斗:阿部洋斗
原:一原みのり
真千子:金子真千
寝太郎:堀慎太郎
温井:矢用温 


終演後、すでに1ヶ月が経とうとしている時に書いている😅
年度末の3月、仕事に追われて書けなかった。
でも、ぽこぽこクラブ初の紀伊國屋ホール公演、やはり書いておきたいので書く。
感想と言うより、ほぼファンの戯れ言ですので悪しからず 笑


今、思い返しても、初めて紀伊國屋ホールの入口に公演案内の立て札が立っているのを眺めた時、そしてあのロビーに入った時の気分は何と表現したら良いのかわからない。
お祭り状態の紀伊國屋ホールロビー、すごくぽこぽこらしくてそれだけで感激してしまった。
いやぁ、ぽこぽこクラブがねぇ・・・


ま、それ以前に紀伊國屋の階段途中に貼られている公演ポスターにもドキドキしながら登ってきたのだったけれども 笑


自分でオーダーした提灯やら応援旗やらを確認、この際なので全ぽこセットも購入して、準備万端。


さて、問題はこれから。


と言う気分だった。


「光垂れーる」は内子座でも阿佐ヶ谷でも観て、とても好きだった。好きだからこそ、改訂版を観るのは心構えが要る。これまでの経験(ぽこぽこ公演に限らず)から、初回は大抵自分の中の思い入れ(裏設定とも言う😅)との闘いが生じてしまうのが目に見えていたのである。


案の定 笑

初日は、ぽこぽこクラブが紀伊國屋ホールで堂々と公演をしている!(しっかり紀伊國屋ホールサイズのお芝居になっていた)という嬉しさと、とても好きだった前バージョンからの改訂にすぐには感性が対応できなくてもんもんとするというのが闘ってしまい、正直、全面的に楽しめた訳ではなかった。

しっくりハマっていると感じていた幾つかの関係性が組み換えられていて、エピソードの比重の付け方にも変化があり、何故にそうする?と思ってしまったりして、その場ではすぐに飲み込み難くて結構大変だった。


でもまぁ、これは想定内。初日の感想は保留 笑

次の日。

(全通しようと思っていたのだが、別な愛しの君 笑 がご出演の舞台が急遽丸被りしてきたので一回はそちらに行きました。こういう丸被り、本当に止めてほしい😅)

おお! 面白い!
今度は素直に楽しめた。


ダンスシーンは誰もがイキイキと美しく躍動感溢れて本当に素晴らしく、初日から引き込まれた。

セットも使い方を含めてとても素敵で、印象的なシーンがあちこちにあった。


そして2回目になると今回のストーリーに感性が追いついたらしくて、これはこれとして観ることが出来るようになった。

死者と生者が共に生きる機会を得た村で、それぞれの在り方の意味を考え、次に進もうとしていく人々の姿が今回もとても素敵だった。

どのキャラもしっかり頑張っていて魅力的だった。

所々、腑に落ちない点や勿体ないと感じた部分もあったけれど、それを吹き飛ばす勢いがあったと思う。

そして、あちこちで繰り広げられる笑い 笑 

どうしてこうも笑いながら泣かされるんだ?と思いながら観てた😅


諭さんと理沙さん、瑞穂さんと神様の関係性が、富士夫さん一家の在り方、村の人々の様々な在り方の中で形を成していくとも言えるかな。


一輝山田先生の、生きるということ、死ぬということ、蘇りということの意味、死者と生者の在り方を考えて考えて考え抜いて結論を出した感じが独り善がりではなく思えて良かった。
反射的に否定するクロちゃんに対しての冷静だが毅然とした態度も素敵だった。


サカモン真ちゃんの純粋さは今回も魅力的だったが、それ以上に迷いを吹っ切った明美ちゃんがかっこ良かった。今回のクロちゃんは面倒くさい奴だったので、明美ちゃんの強さが際立った感じ。
内子座、阿佐ヶ谷バージョンでは真ちゃんの真っ直ぐな想いが無茶苦茶カッコよくてドキドキしたので、初日は真ちゃん/明美ちゃんのウェイトが相対的に小さくなった気がして、ちと残念に感じてしまったけどね。


そして、蘇りでの再会は違う、と凛として己の生き様を貫く登美子さん。神様と真っ向からやり合う彼女の存在は今回かなり印象的だった。

彼女と千可子さんのやり取りも良かった。笑わされながら😅泣かされた。

登美子さんに亡くなったお母さんを重ねてるのかな? 陽永三宅さんがトミちゃんを見る表情が優しくて、仕事という風には見えなくてつい引き寄せられた。泣きそうな表情見てるとこちらも泣かされそうになる。
千可子さんに「俺たちも結婚する?」と問うのは「責任取ってちゃんと成仏させて。」への答えなのかな。この辺りは富士夫さんと同方向の思考回路?😅


玄太諭さんの思わず苦笑してしまうような愛すべき不器用さ(この諭さんだと、理沙さんいるのに瑞穂さんには行かないわな😅)、歌う諭さんから離れられないしっかり者の理沙さん。
夫にも息子&娘にも甘いようで、その実、しっかり手綱を握っているのかもしれない弥生さん、東京ラブストーリーのダンスがとてもキュートな翠さん。


何より、紀伊國屋ホールバージョン、べーさん富士夫さんがカッコ良かった!

富士夫さん、実はかなりシッチャカメッチャカだったりもする のだが😅、それでも何だか格好良いと思える人だった。奥様弥生さんのおかげ、ばかりでもないと思う 笑

大体、開演ですと言って踊り始めたベーさんがはける前にニッと笑みを見せるのだが、これがぎょっとするほどカッコイイ。見ようによってはシャイニングなんだけど😅

クライマックスでのダンスシーンもホントに格好良くて、今回、かなり見惚れた。ルフィなんだか歌舞伎なんだか?な感じで見得をするようなシーンも素敵だった。

このお父さんが落ち込むのを見て驚く玄太諭さんの表情、とても腑に落ちる感じで良かった。
理沙さんが富士夫さんに向かってお母さんの貢献ぶりを説いているとき、明らかに自分に対しての理沙さんを重ねている諭さんの表情も良かった。
諭さんが歌っている時のご両親の様子に泣かされそうになった。そのまま歌を楽しんでる妹さんと比べて、ご両親はなんと言うか、歌っている諭さんそのものを慈しみ喜んでる感じ。
歌っている玄太諭さんもとても素敵だった。
そして、キュンポイントに気づきつつある理沙さんの真剣な顔! 笑


この御一家のやり取りを見たら、瑞穂さんが成仏しようと思うのもわかる気がするので、そこから先の神様の赤い手紙作戦は正直かなり無理を感じるし、受け入れる富士夫さんも、何言ってるの?と思う。


思うのだが、そこから先はベーさん富士夫さんのカッコ良さと舞台全体の勢いに押し流されて納得させられてしまう気がするから恐ろしい😅


外波山さんの神様は愛らしくて、歳よりも大人びてしっかりした感じの橘瑞穂さんとのやり取りはとても微笑ましかった。
橘さん、お声も良いし、いろいろ不器用な大人達をややクールに眺めている若者な感じも良かった。


今回、客席に小さなお子様連れのご家族が何組もいらした回もあって、そういう方々も対象に考えての舞台なのかと思うとなるほどと納得したところもある。

お化け屋敷のシーン、最初はこれ必要なの?と思ったのだが、長い観劇に慣れていないお子様達には気分を変える楽しいワンシーンだったのかもと思う。それに桜吹雪を片付ける意味でもあのシーンから休憩の流れは上手いと思った。

書きたいことはまだまだあるが、一旦、ここまで 笑


(あらすじ)
  売れないミュージシャンの諭は、二人の関係を再考したい恋人理沙に請われて廃村となっている故郷:御能村に母、妹も一緒に帰省した。

 そこは突然現れた神様の力で死者が蘇り、わずかに残っていた村人や移住してきた数人の若者達が共に楽しく暮らす村になっていた。

 諭はそこで23年前の台風で喧嘩別れしたまま亡くなった父:富士夫と再会する。富士夫は23年前助け損なった当時16歳の瑞穂と夫婦として暮らしていた。
 諭の母:弥生をはじめ皆が唖然とするが、それは父親を探し続けている瑞穂を支えるためと判って和解。
 諭の両親のやり取り、歌う諭の姿に自分の思いを確認した理沙は諭にプロポーズ。
 

 その頃、死者がいつまでも生者を縛るようなことは良くないと説く生前は教師だった山田の下、死んだ娘を蘇らせることを良しとしない登美子、生者である恋人明美の将来を考えて身を引く決心をした真二など、この村を終わりにしようとする動きが始まっていた。

 瑞穂も成仏することを決意したが、そもそも彼女の「この村の人達ともう一度暮らしたい」という願いのために死者を蘇らせた神様は「最後の願いを叶えさせてくれ」と頼み込む。

 瑞穂の「強いて言えば、結婚してみたかった。」の言葉に神様は富士夫と冥婚式をさせようと画策する。

 何だかんだで瑞穂と冥婚式を挙げることにした富士夫は妻:弥生とも再度結婚式を挙げることにし、諭と理沙も一緒に結婚式を挙げることにした。

 村を終わりにすることを神様に頼みにきた村人達も共に式に参加することになり、23年ぶりに御能村に祭りが始まる。
 折しも大型台風が近づく中、死者も生者もそれぞれの想いを込めて踊る、踊る。
 諭は父と夢で目を合わせての再会を誓い合う。


 一人佇む神様を瑞穂が迎えに来る。
 何となくわかってた、お父さん、一緒に行こう。


 もやもやが消えない諭に「もやもやしながら生きてけば。それもそんなに悪くない。」と言い放つ理沙。

 二人は戯れ合いながら笑う。

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ホテルカリフォルニア -私戯曲 県立厚木高校物語-(ネタバレあり)

劇団扉座第72回公演 扉座40周年記念公演 

紀伊國屋ホール

12月18日昼夜観劇


作・演出:横内謙介

キャスト:

横山:有馬自由

ハッパ:砂田桃子

シュウケイ:犬飼淳治

岡本:岡森 諦

宮城次郎:六角精児

張ヶ谷:高木トモユキ

関水:鈴木利典

ナオさん:中原三千代

日根:塩屋愛実

堀江:鈴木崇乃

ミナトヤ:山中崇史

橋田先生(体育科):松原海児

鈴木先生(担任、化学科、演劇部顧問兼任):累央

まり子先生:藤田直美

滝川先輩:早川佳祐

団長 伝兵衛:新原 武

リーゼント/横山 母/ チリチリ: 伴 美奈子

ガリ勉さん:三好記者

ジョー:上原健太

リンダ:江原由夏

ナンシー:藤田直美

アーヤ:小笠原 彩

演出助手リエ:鈴木里沙/小笠原 彩

蓮見:菊地 歩

野崎:佐々木このみ

黒江:大川亜耶

ガリ勉君:三浦修平

団部の矢島:小川 蓮

近藤先輩:横内謙介

塩尻先輩:野田翔太

バカ垣戸:紺崎真紀

ガリ勉高山:翁長志樹

厚高生、その他:白金翔太、山川大貴、北村由海



良かった!

あちこちで吹き出しながら泣かされた。

もっと観たかった。


初演は1997年。私が観たのは1999年の再演。多分、初めて観た扉座。

あの頃、有馬さんはもちろん、横内さんも岡森さんも学生服姿にさして違和感はなかった(気がする 笑)

22年経った今、また皆様(横内さん、岡森さんは還暦・・・)が学生服に身を包んで舞台に立ち、すんなり観ることが出来てしまう。

うん、舞台は魔法だ 笑


古き伝統も残っている進学校のしらけ世代、表面上は誰もが熱くなることをあざ笑い、正論を茶化し、学歴重視で教師すらバカにする。


そんな中でも熱くなれるモノはあるし、友情もある。おバカな喧嘩もすれば淡い恋もある。そして挫折もするし、すれ違いもある。

ある程度展開を知っているので、他愛のないシーンでも涙が出そうになってしまい困った。


前回の時は「ホテル・カリフォルニア」の意味するものを素通りしてしまっていたのだが、今回は張ヶ谷さんの台詞が耳に残って、この舞台にこのタイトル、なるほどなぁと切なくなると共に感心していた。(この歌は、60年代にあった純粋無垢な理想の終焉を歌っていると言うような背景があるらしい。今、手元に購入した台本がないのでネット調べ😅)


先輩のおかげで演劇と言うハマるものに出会い(熱海殺人事件の木村伝兵衛部長刑事を演じてた新原さん、カッコよかった!)、さらに才能にも恵まれて突き進むことが出来た横山君(と岡本君)、我が道を行く宮城君、ミナトヤ君、生徒会で真っ直ぐに頑張るハッパさん、それまでの自分を変えようと文化祭実行係に加わるシュウケイ君。革命を目指すも、何者でもない自分の無力さを思い知らされ、東大を目指す張ヶ谷君。


他の皆様も、誰もがそれぞれに悩みつつも瑞々しく生きる高校生そのもの。

年齢など鮮やかに飛び越えていて(あ、累央さんはご年配な先生役もお似合いでしたし、伴さんは東大大好きなお母さんもお似合いでした 笑)、役者さんってやはりオソロシヤ😅

観ていて、懐かしさやこそばゆさ、切なさ、虚しさ、様々な想いが湧き上がってきてすっかり引き込まれてしまった。


一所懸命に普及活動をする宮城君達(六角さん、ホントに大変そうだった😅)を嘲笑っていた生徒達の中から参加者が増えていき、文化祭の後夜祭で皆がジンギスカンを踊り出すシーンは今思い出しても涙が出そうになる。


そして、シュウケイさんの「話そうぜ!」が皆の同意を得られないシーン、もう堪らなかった。シュウケイ:犬飼さんのとても晴れやかな表情がスッと消えていくのがイタくてイタくて・・・

他の皆にとっては多くの機会の中の一つ、たまたま都合が悪いだけ。でも、シュウケイさんにとってはやっと掴んだ仲間と機会。卒業式のエピソードも鳩尾辺りがヒュッとした。多くを持つ人には想像出来ないダメージにもなろう。


東大に合格した張ヶ谷さんのシーンもやはり切ない。

東大に合格して、張り出される合格者一覧を塗り潰してやる!と言っていた彼が、その一覧に載る自分の名前に大喜びして横山君に散々自慢した後に「釈放だ・・・」と呟いて去っていく。


20歳で自ら命を断ったシュウケイさんに語りかける現在の横山さんは舞台の演出をしている。

横山君(横内さん)にとって繰り返し繰り返し立ち戻る原点、なのかなと思う。

そういう原点があり、それを当時から共有する仲間がいらっしゃる横内さんってすごい奇跡を体現されてると思う。

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シャンソマニアⅡ 〜葵〜(ネタバレあり)

花組芝居

あうるすぽっと

11月26日夜、12月5日昼他 観劇


原作:紫式部

脚本・演出:加納幸和


【演奏】

ピアノ/芹田直彦

ドラム/長倉徹 

ベース/山口じゅん


【キャスト】

光源氏:小林大介

桐壺院:桂憲一

藤壺:大井靖彦

東宮:押田健史

六条御息所:谷山知宏

斎宮:秋葉陽司

朝顔 :永澤洋

左大臣:原川浩明

大宮:秋葉陽司

葵の上:北沢洋

照日の巫女:丸川敬之

紫の君:武市佳久

少納言:横道毅

三位中将:押田健史

源典侍:磯村智彦

右大臣:秋葉陽司

弘徽殿大后:山下禎啓

朧月夜:押田健史

生霊:加納幸和


衣装はほとんど皆同じで、歌って踊る花組芝居仕様の源氏物語。


面白かった!


実は、初日はまだお歌が不安定な方も多くて、聞いてる自分が勝手に緊張してしまい、正直、十分楽しめたとは言い難かったのだが😅、次の日にはもうかなり落ち着いて、そうなると本来の面白さがぐいぐい迫ってきて引き込まれ、何度も観たくなる面白さだった。


初演(Ⅰ)は第一帖の桐壺、今回(Ⅱ)は第九帖の葵。

桐壺の時は、皆、真っ白な洋装だったが、今回は基本的に黄色と黒の裃、光の君だけピンクの着物に水色の袴(岩下の新生姜と言われたそうな😅)。

それに薄衣や打ち掛け、セーラー服?を羽織るくらいで、全員が年齢、性別を軽やかに飛び回る。


そりゃ、観客の想像力も必要だし、私はそれに慣らされ過ぎてるところもあるので😅、初見の人がどう感じるかはわからないけれど、今回誘ってみた初見の2人はどちらもとても楽しんでくれたようだった。

(なお、生霊の加納さんはしっかりした拵えのお着物姿。これは観客へのプレゼントみたいなものでしょう 笑)


お歌はシャンソマニアなので元ネタはシャンソンが多いのだろうが、宝塚のようだったり、ムード歌謡のようだったり(私は歌のジャンルがよくわからないので適当だけど😅)

踊りは、扇を巧みに操る和風の踊りからミュージカルやバレエのようなダンスまで、どれも見応えがあった。


台詞は原文に近いものも多くて、私はしっかり理解出来たとは言えない。

でも、その台詞を鮮やかに自然に生きた言葉にする役者さん達、デフォルメされた仕草や歌や踊りになっていても伝わってくる想いにゾクゾクした。


そして巧妙に混ざってくる口語や今どきの言葉、ちょっとしたアドリブ。口にする役者さんの仕草、表情も相まって、ずるいくらいに効果的にこちらの気持ちを引っ張ってきた。


皆様、上手いよなぁ。


どの役者さんにもそれぞれに見せ場があって、皆様、素敵だった。


まず板付で登場する丸川さん、今回、いや、もうカッコいい、カッコいい。

ストーリーテラーを兼ねる照日の巫女、場の取り回し、絶妙な間合いの突っ込みその他に惚れ惚れした 笑 

弓の弦叩きながらお祓いしているシーンも妙に可笑しくて、谷山さんの六条御息所との掛け合いもとても良かった(「すり足でどこ行くの?怖いよ!」とか谷山さんの所作も見事なので可笑しくて仕方なかった)。

そして歌! 生演奏を背負って、いや、もう・・・ねぇ。ライヴやるか、CD作って欲しいです。



そして谷山さん、六条御息所。こちらも素敵だった〜!

高貴で健気で切なくて、斎宮じゃないけど「なんであんな人を好きになったかな、これほどの人が😓」と思ってしまう。

「私は大丈夫。」と歌い踊るダンスが素敵過ぎて、あのシーンの動画は無理でも写真が欲しい! 

それから、光の君と三位中将に取合いされる女人の時がものすごく美女! ただの裃姿なのに、何だろ、この人?と思ってしまった 笑

千穐楽は機材トラブルで、六条御息所の想いが高じ過ぎて生霊化する辺りの見事なシーンを2度観ることが出来た(谷ちゃんには申し訳なかったけれど、トラブルにもブレない姿、カッコよかった)。


この調子で書いてるとえらく長くなるな😅 

でもDVDは出ないとのことなので、自らの備忘録として書こう。


別な意味で、何だろ、この人?な光源氏、大介さん 笑

いや、演じている大介さんは素敵です。

何だろ?なのは光の君 😅

あんなしょーもない光の君、初めて観たかも 笑 

いや、それでもカッコいいのだろうと思えるのがすごいのだが、才にも美貌にも恵まれてるくせに立場的に少し不遇でちょこっと拗れたマザコンのお坊ちゃまが暇つぶしに女性達を破滅させてるみたい・・・と書いていて、大介さん、トリゴーリンもやってたな、と思う 笑

朗々と歌い上げるシーンもあって、日毎に素敵になって感動してた。

でも、朝顔とのデュエットはどうしても吹き出しながら、バックダンサーの桂さん&大井さんを観てました、すみません 笑

なお、この公演前に大介さん、ご結婚されたそうで、その記念ブロマイド?が物販にあった。

おめでとうございます。



朝顔、永澤さん。

小悪魔的な女形が板についてきたと言うか何と言うか、可愛い 笑 

紫の君を口説こうとしているはずの大介光の君がやたらと洋君にちょっかいを出してて、楽日のカーテンコールで武市紫の君が「もっと僕も見て!」とねだってた 笑



その紫の君、武市さん。

今回、とても可愛くてお歌も良くて印象的だった。一人、現代っ子な感じの紫の君、幼少時はお兄ちゃんな光の君に無邪気に甘えていて、思春期に入ったら無遠慮に父親を無視する女子高生のような・・・😅

あれでは光の君、洋君の方を向くよ、そりゃ 笑

なんてことを考えて遊ばせてくれる花組の役者さん達 笑



そうだ、現代っ子なのは斎宮もか。秋葉さん。

ドライに母:六条御息所の恋と光の君のポンコツ振りを見定める賢い娘。清く正しく美しく神に仕えて生きる!と歌い上げ、丸川巫女から花束を貰って涙ぐみ、なかなかご挨拶できないのは退団するタカラジェンヌのようなのだが、最後に右腕を突上げ、「我が生涯に一片の悔い無し!」笑

その他に左大臣の肝っ玉母さん的な妻を演じたかと思えば、遣手の右大臣にもなる(でも娘の弘徽殿大后には突き飛ばされる😅)秋葉さんも変幻自在 笑



左大臣は原川さん。

頑固な亭主関白そうに見えて、秋葉妻と仕える女官達(永澤さん、武市さん、大井さん)に押し切られる人の良さが素敵。

あちこちの場面に登場して歌い踊り、時には戦い😅、原川さん、流石です。



今回のタイトルロール?葵の上、北沢さん。

お姫様育ち?でプライドが高くて素直に光の君に甘えられなかったのだろうことが納得出来る、憎めないお姫様。北沢さんの見かけはどう見ても男性なのだが、えらくキュートなのだ、これが。わかっていてもびっくりする 笑 

そして、ラスト近くにそれまでの陣形を崩して踊る僅かな時間、思わず二度見するくらい華やかな踊り方をされるので毎回凝視してしまった😅



歌が時々浮かんでしまって困ったのが、源典侍:磯村さん 笑

教養など女官として申し分ないが、年に似合わぬ色好みの女性という役なのだが、何とも言えぬ味があって素敵だった 笑 「報われぬ恋でも無いよりはマシだわ!」と果敢にアタックする姿はむしろ清々しい。



対して、ひたすら真面目な女官、少納言:横道さん。

光の君のお帰りに際して「お帰り遊ばせ!」とご挨拶するシーン、毎回、大介さんが「出迎えかい、御苦労だね。」と仰りそうな気がしてしまって困った 笑 その代わり、表彰状を頂いてましたね。



桐壺院:桂さんと藤壺:大井さんのペアは、もう、出てきた瞬間からニヤけてしまう 笑

弘徽殿大后のことも普通に気にかけている桐壺院を独占しようとする藤壺殿、と言うのはこれまで持ってたイメージと違うが、このお二人がやってるとどちらもどうにも魅力的でついつい頬が緩んでしまう 笑

先に書いた光の君と朝顔とのシーンは、桐壺院夫妻としてではないが男女の痴話喧嘩なダンス、あまりにしっくりしたお二人についつい目が行ってしまうのは同じだった。


大井さんは他では永澤さん、武市さんと三人官女のように出てくることが多くて、それに対して何の違和感もないことにまたしても驚愕!(歳、20歳以上違うよね) 

可愛いし、踊りは機敏だし、やはりこの方、何処ぞで人魚の肉を・・・😅

とあるシーンの去り際の言葉が「だめだ、こりゃ」なのがむしろ違和感?笑



さて、大井さんとペアでなくても、出てらっしゃると私はどうしても目で追ってしまう桂さん 笑

藤壺殿を隣に置いて、弘徽殿大后に「何故、来ないの?」となんの屈託もなく声を掛けてしまう天然振り、藤壺殿の誘惑にあっさり負ける素直さ?にドキドキしてしまう 笑

光の君に「男たるもの、関わりを持った女性には等しくあるべきだ。」と言うようなことを朗々と歌い上げてらして(素敵でした)結局、似た者父子よね、と思う😅

女形の時(源氏物語なのでほとんどは女形)は妙に仕草が可愛くてついつい見惚れる 笑

さらに、あるシーンで雪洞持って登場されるとどうしても違う舞台が浮かんでしまって、そのギャップに内心吹き出したり、結局、桂さんは素敵だという所に落ち着くのである。



桐壺院&藤壺の所に東宮として現れる押田さん。これは幼く可愛くて、朧月夜は可憐、そして三位中将は色男なのだろうが、光の君と並んでおバカさんで可笑しかった 笑

山下さん、谷山さん、大介さんの日本舞踊組と一緒に踊るシーンは皆様、所作、体勢がとても美しくてゾクゾクした。 

なお、三位中将の登場前に飛行機の音がするのだが、これもまたどうしてもワンダーガーデンの大村子爵が浮かんでしまい、大井さんが出てきそうな気がしてしまった、すみません😓 



この方も気位が高くて桐壺帝に素直になれなかったのだろう弘徽殿大后:山下さん。

光源氏憎しの念は怖いが、桐壺院に見せる恥じらいや「パパ、どいて!(邪魔!だっけ?)」と右大臣を突き飛ばす辺りの仕草が可愛くて、こちらも憎めない😅

最後に歌い上げる姿も素敵だった。



最後に生霊、加納さん。

ここだけ色が違う。

本格的に歌舞伎テイストなシャンソン(って何だ?😅)と思って観ていると急に葵の上の首を普通に?締め始めるから油断出来ない 笑

楽日の機材トラブルの間、生霊姿のまま色々お話して下さって、途中からは大介光の君まで加わり、思わぬプレゼントを頂いた気分だった。



ラストは全員で歌い上げて終わったのだが、出来ることなら客席側も一緒に歌いたかった。

いつか、皆で歌っても差し支えのないようになったら、シャンソマニアコンサートをやって頂きたいです。

(ファンの好き勝手な戯れ言ですので、ご容赦)

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暴発寸前のジャスティス(ネタバレあり)

ぽこぽこクラブ


新宿シアタートップスオープンシリーズ


新宿シアタートップス

9月24日15時、9月25日18時半他


脚本:ぽこぽこクラブ

演出:三上 陽永


キャスト:

レッド:高橋玄太

ブラック:渡辺芳博

イエロー:坂本健

グリーン:杉浦一輝

ブルー:三上陽永


 トップスのオープニングシリーズにぽこぽこクラブが突如として参加?? と驚いた。しかも演目は、初演を観て演出も含めてとても好きだった「暴発寸前のジャスティス」。

 これは観ねば!と取っていたチケットを幾つか捌いて観劇。


 面白かった。

 個人的には無くなって少し寂しいエピソードやシーンもあったが、コミカルな面とシビアな面のバランスは変わらず絶妙で素敵。

 なんだかな😅な設定も妙にすんなり飲み込めてしまう手動字幕? 笑 

 それぞれにクセの強い魅力的なキャラがごく普通に平和にワチャワチャしているのを見せておいてからの急展開、また和やかな親子の会話を聞かせながらこちらの想像に委ねられた不穏なラスト。

 トップスの舞台下まで使った舞台構成も面白かったし、クライマックスの舞台セット、照明、見惚れた。二日間しかやらないのは勿体ないなぁと思った。


 実は初回を最後列端で観た時は初演の方がまとまりが良くて好きかもと思った。特に戦闘員とのシーン。それに、某音楽に乗せてのダンス、人形劇、縄跳びのシーンは伏線という点でとても巧みだと後から思ったけれど、最初に観た時はちと長過ぎるように感じたし・・・


 でも2回目を最前列で観たら印象がかなり変わってとても引き込まれた。

 昼と夜で何か変わったのか、私の捉え方が変わったのか(多分こちら 笑)、おお!と思った。あちこちで笑いながら泣かされそうになって困った。

 初演よりも長い時間が過ぎているようなラストも切なかった。初演はまだ治っていないだけかとも思えたレッドの車椅子はもう日常のようだったし、見違えるようにしっかりして当然のように銃を携えて出かけていくイエロー、ヘルメットはあるがブラックの姿はない。一人変わらないように見えるブルー。

 気持ちがざわつく。

  そして、モモスケ君とお父さんレッドの微笑ましい会話に出てくる飛行船、何かを見つめて表情を変えるブルー・・・

 鳩尾辺りがヒュッとして終わる。書いてるだけでまたおかしくなったぃ😅


(でも、リアルピンちゃんが出てこなかったのはやはり残念である 笑)



 気苦労の多い中間管理職風ながら上手くメンバーを取り回すレッドのほのぼのとした佇まい、チンピラ風でも実は小心者な愛妻家ブラック、お調子者だが裏表はなく人の良いイエロー、この3人の設定はほぼ初演通り。


 少し設定が変わっていたのがグリーンとブルー。


 初演のグリーンは、病気の母親を抱えながら頑張る、ちと頼りなさはあるものの素直な良い子そのものだったが、今回は母親の影はなく、一軍に憧れながら何となく日々流されるまま過ごしている若者。でも素直な可愛気はそのまま。


 初演のブルーは何か裏がありそうで一種のUNDERCOVERとして来ているのかと勝手に想像したりしていたのだが、今回はもっと弱さが見える気がした。それにレッドとお茶している姿等が妙に乙女?で、ちとLGBTsな背景も含まれているのかも?なんて思ったりした。



 で、この感想をまとめながら、今回、個人的にこの二人と、少し前に観た渡辺源四郎商店 うさぎ庵のキャラとをちと比べていたことに気づいた😓

 以下は、感想というより単に書きたいことを書いているだけです、悪しからず。



 開演前、一人テレビを見ながらゴロゴロしている一輝さんが舞台にいるのだが、多分、ヒーロー隊に入ろうとグリーンが思い立つシーンの回想なのだろう。

 ここが渡辺源四郎商店うさぎ庵「コーラないんですけど」のケイちゃんに繋がって、ラスト、テレビの向こうで戦っているのであろう一軍ヒーローなグリーンの姿が、戦地から戻ってきたケイちゃんの纏う雰囲気と被るような気がしてクラクラした。

 ただ、ちと妄想癖があるような母親と共依存して働くことを拒否していたようなケイちゃんと比較すると、グリーンはとても素直にヒーローを目指しており、一軍ヒーローなグリーンは割とさらっと飲み込めてしまった。それが悪い訳ではないのだけれど、何だろ? 個人的な好みとしてもう少し何か引っ掛かりが欲しかったのかも知れない。

 

 

 ブルーは、渡辺源四郎商店 うさぎ庵「山中さんと犬と中山くん」の中山くんと無意識に一部重ねてた😅

 ブルーが大切なことを忘れないために銃を持っていると言うのに実はちょっと違和感があった。最初の引き金が引けなかった自分を思い出すため? でも撃てなくなって3軍に来たのだとすれば、思い出すも何もむしろトラウマになってしまっているのでは?と考えていて思いついた。

 銃を持つとヒーロー=冷徹な殺戮者のスイッチが入ってしまう、スイッチを入れたくなかったけれど、仲間を、町の人々を救うためにスイッチを入れた、という方が納得しやすい。

 精神的に続けられなくて一旦は3軍でリハビリをしていたけれど、いつかはまた2軍、1軍に戻るつもりだったので(地球を、人々を守りたい)、スイッチを入れられるように持っていたと言うような感じ。これだと、レッドが言う「怖かったんじゃないんですか?」の怖さの意味が「殺戮者から戻れなくなる」恐怖になる。実際、銃を持って地下室?に入っていくブルーはとても冷静で何かのスイッチが入っているように見えた。

 それが、刀を抜きたくないと言いながら、人を守るためにやはり刀を抜いた中山くんと被った(中山くんは、高田馬場の決闘で有名な中山安兵衛、後に赤穂浪士の1人となる)。

 中山くんは近くに彼の想いを受け止めて笑ってくれた奥田さんがいて、その後、何かを吹っ切ったように一緒に飲みに行く。

 ブルーは仲間や町の人達の顔が浮かんでスイッチを切ることが出来たのだろう、なんて考えると納得出来て、自分の中でまた裏設定が出来ていくのである 笑

 


 戦闘員との闘いについても人によって考え方が違うような気がする。

 初演のリアルな闘い、遺骸がそこにある生生しさ、えげつなさがすごく効果的に思えて、最初に観た時はそれが無いのは勿体ないように思えたのだけれど、次に観た時は、今回の、観客には見えない、しかし明らかに存在する何かと戦う彼らは、一般人の目には見えないCOVID-19と直接戦っている方々との重なりも感じて、まさに今のヒーローなのかも、とも思えた。


 ただ、戦闘員との闘いがゲームや映像で見ているような無機質なものではなく、生き物同士の殺し合いである、というおぞましさの説得力はやはり初演の方が強い気がした。


 今回も戦闘員を倒した後に愕然として動けなくなっているブラック、イエロー、グリーン、彼らを叱りつけるように指示を出すブルーの姿から相当な非情さは感じたし、初演の衝撃がなかったら十分満足したと思う。

 銃で殺す、というのも、やり方によってはとても非情で感覚的には凄まじくなると思う。


 思うのだが、その場面は幕の向こうで行われ、どうだったのかは観客には見えない。テレビの向こうで颯爽と戦う一軍ヒーローに憧れるグリーンにとって、冷静に銃で敵を倒すブルーの姿はやはり格好良かったのではなかろうかとも想像してしまった。


 あ、でも、ヒーローへの憧れは、ヒーローを目指す若者達のモチベーションには違いないのだし、おぞましさを越えてなお一軍になりたいと望む気持ちに格好良さへの憧れがあってもこの時点では良いのかも、と今、自問自答しながら思った😅


あらすじはまた時間がある時に追記予定(いつになるかは不明) 初演と大体同じにしてしまいそうだし。

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見てないで降りてこいよ(ネタバレあり)

ぽこぽこクラブ 早春公演

オメガ東京


3月10日16時、3月14日16時 他😅 観劇


作・演出:三上陽永


キャスト:

ナオキ:山岸賢介(ウラニーノ)

ケンジ:三上陽永(ぽこぽこクラブ)

アカリ:都倉有加(シープラス)


男1、不良、生徒会長、医師等:渡辺芳博(ぽこぽこクラブ)

男2、不良、歌の先生、ナオキの母 他:坂本健(ぽこぽこクラブ)



この公演の前に、劇小劇場で「若手演出家コンクール」の応募作品として上演され、最優秀賞!

おめでとうございます😄


コンクール(数は少なかったが観客も入れたし、配信もあった)の時からとても良かったけれど、オメガ東京でさらに変化、進化、あちこち挑戦し続けていた気もしたお芝居。


一言で言うと、すごく良かった!


拍手し続ける男2の気分、

と書けば、観た方には伝わるだろうか 笑


1時間の中でここまで濃密なお芝居もすごいなと思う。あっという間でもあるし、すごく長い時を過ごした気もした。


最初(コンクールの初日)に観た印象は、とにかく‘‘直球‘!

いろいろな意味で、バカが付くくらい(すみません😅)ど真ん中、全力投球勝負!に思えて、お芝居に引き込まれて鳩尾辺りが苦しくなるのと同時に、コンクールに挑んでいる陽永さん、ぽこぽこクラブの面々そのものにも泣かされそうになってしまった。


どうしても応援団的な気分になってしまい、審査員がチェックしそうなことを勝手に推測して観てしまった所もあるので、感想をまとめようと思うとどうも妙な目線の書き方になってしまう😅

一旦書いて、そのうち整理しよう。


まず、脚本がものすごく真っ直ぐ。

友情、優しさ、強さなどプラスな面だけでなく、嫉妬、自らの障害を受け入れることへの抵抗、八つ当たり等もとてもリアルに描かれる。その上で、それを指摘し正してくれる存在、それを受け入れる過程、さらに受け入れきれなかったのかも知れない部分などが、またとても素直に描かれていて、観ていて苦しくもなるが、最後は優しい温かな気持ちが残る。


そして、演出。(普段こんな感想は書かないと思う 笑)

これでもか!と次々と繰り出されるアナログとも言える直球な演劇的アイディアの数々。

観ていて、そこまで詰め込むか?と若干心配になったくらい😅

山岸さんの雰囲気とギター、歌の活かし方、リサイクルショップのあれこれが部屋の色々なモノになり、山になり、粗大ゴミ置き場になったりもする。ベッドは人形劇の舞台だし(大人しいナオちゃんが、ケンジに怒鳴られて雲まで?飛び上がってしまう所、密かにとても好きだった 笑)、スクリーンだし(これはオメガ東京のみ)。

石を投げるシーンやアカリちゃんのダイブシーンのクレッシェンド?は何度見てもつい吹き出してしまう。

いくつか出てくる相似な動作、シーンの重ね方もすごく効果的で上手いなぁと思った。

ナオキがいじめっ子達にからかわれるシーンと難聴の悪化に慄くケンジのシーン等、重なることで深みが増して見える。

なお、シライケイタさん作のお芝居での千葉哲也さん演出をどうしても使いたくてやったそうな 笑、冷蔵庫に頭を突っ込んで自分の情けなさを泣きながら告白するシーン、アカリちゃんの懐の深さも含めてとても良かった。



次、役者さん。

いや、役者さんの活かし方、演技も演出の1つになるのだろうけれども、それをしっかり豊かに体現する皆様、それぞれ本当に素敵だった。どのキャラも印象的、魅力的だった。


主演の一人、ナオキの山岸さん。

正直、初舞台の方をコンクール参加作品の主演に据えるってチャレンジャーだなぁ😅と思っていたけれど、びっくりするくらい自然に舞台に溶け込んでいた。

人前では固まってしまう緘黙症のナオキ、でもケンジと居る時は控え目ながら喜怒哀楽を見せ、歌い出すと見違えるように変わる。

山岸さんのジェントルな佇まい(アフタートークでは"上品"と表現されてた 笑)を活かしての当て書きだそうだけれど、それだけでないのは、楽日のカーテンコール、話の流れで突然、陽永さんが「やっぱり、お前の前で歌うのキツイよ!」と舞台の台詞を投げた際に、即座にしかもさり気なく受けて立って場を形成したのを見てわかった。恐れ入りました。

そして、ギターと歌の説得力が高いのは「もうひとつの地球の歩き方」で知ってから曲をスマホに入れてあるので既知である。ケンちゃんが愕然としたシーン(「愛してる」を歌ってる時)はホントに顔が違った 笑 

贅沢!


もうひとりの主演、ケンジの陽永さん。

もともと虚構の劇団の舞台から、見てはいけない内面まで吐露するような表情に引っ張られているのだけれど、今回のこれはもう・・・卑怯😅

引っ張られ過ぎてどうしようかと思った。

いじけてても元気な頃はただ追いかけていれば良かったけれど、耳のことが顕在化してきた頃はその表情を見てるのが辛すぎて、でも目は離せなくて、仕方ないので無理矢理演出に意識を飛ばして感心している、と言うような妙なことをしてしまった。

天使の輪っかみたいなのを付けてビョンビョンと振った後、天からナオキを促して笑顔を見せる所も素敵だが、照明が当たらなくなっていく中で、ナオキはもう大丈夫だなとでも言うように輪っかを無造作に外して脚立から降りる所もかなり好きだった。


そのケンちゃんの隣でしっかりと支え、励まし、叱ってもくれて、かつ可愛いと言う魅力的過ぎるアカリちゃんの都倉さん。

本当に素敵だった!

委員長タイプの中学生の頃、鈍いケンちゃんに見つめられて固まる表情と切り換え方、ダイブするお茶目さ。

ナオキを傷つけたことを悔やみつつ、一人歌詞ノートを読み出し、やがて歌い出すケンジに徐々に寄り添い、最後に抱き締めるシーン、泣かされた。

もっとも、このシーンは幾つかバージョンがあったようで、歌詞ノートを手にしたケンちゃんが淡く微笑みながらアカリちゃんを見て、すぐに二人寄り添って歌詞を読み出すバージョンも切なさと優しさがごっちゃになって良かった。個人的には先の意地っ張りケンちゃんバージョンの方がしっくりくるけど。

ケンジが亡くなってから訪れたナオキとのやり取りもとても良い。押し付けず引き過ぎず、絶妙。いやー、都倉さん、素敵だ〜。


もう一人、さり気ない気丈さがとても魅力的だったのがナオキのお母さん、サカモンさん。

本当は様々に悩み苦しんでもいたのだろうけれど、さり気なくナオキとケンジに接する様、一直線なケンジにあくまでも穏やかに笑顔で対する姿、激昂するケンジを見送った後の姿から滲み出て見える気がした想いに何とも言えない気分になった。

そして、サカモンさん、リサイクルショップの耳の聞こえない店員さんも素敵だった。裏表のない素直さが、ラストの奇跡を当然に見せてる気がする。

その他、不良、ラッパー、歌の先生、どれも生き生きして素敵だった。黒衣?もね 笑


で、リサイクルショップの謎の?店長、べーさん。

ぶっきらぼうで横暴な物言いをしていても店員君を可愛がっている気がするし、つい、何か隠されたものを持っていそうな気もしてしまう  笑 店長さんと店員君の関係性にも興味を引かれる。

典型的な不良、クソ真面目な生徒会長(彼の提案は好意的だったと思うけどなぁ😅)、隣のご婦人、ラッパー、医師など流石の切り換え方。楽しかった。

黒衣?の数々もお見事で、雲まで飛び上がるナオちゃんを動かしてたのもべーさん 笑

楽日の髪型で遊んでみたりするところも素敵 笑



この店長と店員君がいるリサイクルショップの色々なモノに纏わるお話をシリーズ化したら面白そう、なんてことも思ってしまった。



さて、最後にちらっと


温かい気持ちが残ると書いたけれど、捻くれている私は若干苦味も感じる。


音楽の道を進むナオキを天から見守るケンジ。

それは優しい世界。


でも、ケンジが去ってナオキが人と話せるようになったのは、ケンジが後で悔やんだキツイ言葉がきっかけかも知れない。ケンジがいたら甘えていた。いや、無意識にケンジに遠慮していたのかも?なんてことも思う。


ケンジは、結局、自分の障害をきちんと受け入れる前に事故で亡くなってしまった。

ケンジのナオキへの友情に嘘はないと思うけれど、そこに立場の逆転と言う発想はあったのだろうか?


なんてことが浮かぶくらい、物凄くリアルに自然に表現してくださってしまうので、常々自分の中の美しくない感情と戦っている私なんぞは勝手に苦味も感じるのであった😅



(あらすじ)

店長と耳の聞こえない店員がわちゃわちゃと?働くリサイクルショップを訪れた青年が、店員のギターを借りて歌い出す。


緘黙症のナオキは、中学時代、幼馴染のケンジから貰ったギターを軽々と弾きこなすようになる。ケンジは、もう一人の幼馴染アカリをマネージャーに引き入れ、ナオキと共にバンド:ニューノイズを結成する。

「ナオキの才能は神様からの贈り物だ。」と言うケンジに、ナオキは「僕にとっての神様はケンちゃんかな。」


ナオキの母親は、特殊学級に通うナオキに障害者手帳を取り、特別支援学校に行かせようと考えていることをケンジに伝えるが、ケンジは「ナオキを障害者扱いするな!」と叫んで飛び出してしまう。

明け方、ナオキを誘い出して朝日を見に行ったケンジ

「俺は神様じゃない。俺達は相棒だ。」


ナオキと一緒に通学するため定時制高校を選び、夜はクラブでバイトしながら、高校卒業後もバンド活動を続けていたケンジは、ある日、ギターだけでなく、歌も作曲も自分よりはるかに上であるナオキの姿を見て落ち込むが、自分の彼女になっているアカリに叱咤され、またナオキの元に戻る。


そんな中、ケンジは、以前から聞こえ難いことがあった耳がさらに聞こえなくなっていることに気づく。突発性難聴で右耳は殆ど聞こえず、左耳もかなり聴力が落ちており聴覚を失う恐れがある。障害者手帳を取得するようにと勧められる。


補聴器を選ぶアカリに当たり散らしたりしたケンジは、ナオキにニューノイズ解散を告げる。

驚いて理由を尋ねるナオキに

「お前の障害はその気になれば治る。俺と一緒にいるから甘えてる。俺は神様なんかじゃない。」


「何故、そんなひどいことを言ったの」

とアカリに問われたケンジは

「わからない。(自分の障害のことは)どうしても言えなかった。俺、最低だな。」


やがて歌詞を書き溜めたノートを手に取り、読み出すケンジ。


ナオキはギターを粗大ゴミ置き場に捨てようとして、引き返してギターを弾き出す。


二人で作った歌を二人が別々な場所で歌い出す。

ケンジにアカリが寄り添い、泣き崩れるケンジを抱き締める。


ナオキはギターを置いて立ち去る。



しばらく後、一対一なら話せるようになったナオキがアカリの元を訪れる。音楽はやっていない。

アカリはケンジの歌詞ノートと障害者手帳を見せる。

驚くナオキに、アカリは「これがニューノイズ解散の本当の理由。」


事故で亡くなったケンジ。

補聴器は着けていなかった。


アカリがケンジの言葉を伝える。

「もう一度ナオちゃんの歌が聞きたいって。神様になってナオキを見ててやるって。」


ナオキにケンジの声が聞こえる。

ケンジはナオキを促す。


「わかったよ。ケンちゃんが見ててくれるなら、僕、歌ってみるよ。」



見てないで降りてきてよ。

見てないで降りてこいよ。


青年が歌い終わると、店員が猛烈に拍手する。

「良かった!すごく良かった!」


店長は「わかんのかよ。」と呆れつつ、青年に名前を聞く。

「ニューノイズ。バンド名です。」


「ギター、拾ってくれてありがとう。」

とナオキが去った後、店員が歌い出す。


見てないで降りてきてよ。


「良い歌だったな。」と店長。


見てないで降りてこいよ。


ん?

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SHELTER(ネタバレあり)

ぽこぽこクラブ vol.7
オメガ東京

11/5夜,  11/15昼他 観劇

作:杉浦一輝 +三上陽永
演出:三上陽永

キャスト:
橘 雅彦(父親):森田ガンツ(猫のホテル/なかないで、毒きのこちゃん)
橘 清美(母親):大沼百合子(J.CLIP)
橘 賢一(長男):渡辺芳博(ぽこぽこクラブ)
橘 千佳子(長女):糸原舞
橘 達治(次男):高橋玄太(ぽこぽこクラブ)
橘 幹雄(三男):近藤茶
橘 有紀乃(次女):菅野恵(Moratorium Pants)

小山田 良(清美の彼氏、お笑い芸人):坂本健(ぽこぽこクラブ)
橘 沙耶香(幹雄の妻):磯部莉菜子(エンバシイ)
宮益 裕太郎(有紀乃の幼馴染)(Wキャスト):杉浦一輝(ぽこぽこクラブ)/三上陽永(ぽこぽこクラブ)

 

良かった。泣かされた。
同時にかなり苦さも感じた。


思い切り、家族の話。
時は今、まさにコロナ禍での、どこにでも有りそうな家族のすれ違いと再生。


なんてまとめてしまうとなんだか薄っぺらい感じになってしまうけれど、観た人がそれぞれに家族や身近な誰かを思い浮かべてしまうのではないかと思える良いお芝居だった。
役者さんもとても自然に役に溶け込んでいるので、引き込まれて身に詰まされた。


もしかしたら、観た人毎に見えたもの、感じるものが異なるお芝居だったかも知れないとも思う。
同じ言葉を聞いても、受け止め方は人によって違うだろうし、シチュエーションでも違うだろう。
私自身、家族との関わり方があまり上手くない。
自分や実家の家族を思い浮かべてしまい、勝手に重ねたり比較したりして苦い思いをしたのであるが、これは私に見えた風景に過ぎないやね。
感想を書こうと思ってなんか書き難いと感じたのは、結局、自分の家族への考え方がベースになってしまうので、そしてそれがまともであるという自信がないからである(^^;


でも、言葉を作ったくせにそれを上手く使いこなせない人間というのはシェイクスピアの頃からそんなに変わらないのだろう、なんて古典に逃げてみたり 笑
テレパシーという超能力が発想されたのは、やはり人間関係の構築に誰もが苦労しているからなのではと想像したりする。
わかってもらいたい、でも本音を知られたくない。面倒な生き物だ。とSFにも逃げてみる 笑


まあ、書こう。(また、むやみにとりとめなく長い…)


取り立てて悪い所があった訳ではない。
ただ、家族と言う近しい人への関わり方があまり上手くない不器用なお父さんと、その遺伝子をしっかり受け継いでしまった兄弟姉妹が5人もいれば、あんな風にもなるかと思う。
家族であるという油断なのか、あまりに遠慮のない物言い、決めつけに気持ちがざらついたりもした。
そのくせ、ちゃんと反省するやたら素直な所も受け継いでいる。
きっかけさえあればもっと早く修復されていたのでは?と思うとさらに切なくもなる。

それから、意地っ張り、強がりなのは実はお母さん譲りなのでは?と思ったりもする。
お父さんの遺骨が届いた夜、家族の亀裂が一気に表出した際にじっと耐えているお母さんのお顔は観ていると苦しくなったが美しくもあった。
ここにも不器用な人がいる、とも思った。


不器用で意地っ張りだとなかなか人に弱みは見せられまい。
さらに小さい頃からお兄ちゃんで家族皆から信頼されていると言う自負があれば尚更で、だから賢一さんは一人で頑張り続けて折れてしまったのかも、なんて思った。
(もっとも賢一さんがどうしてそうなったかの説明は一切ないので想像が広がり過ぎて妙なところに行きついたりもするのだが、それは後で書く笑)


一方、外から新たな絆を形成して関わってくる3人がそれぞれに直球勝負で、その、橘家とは異なるベクトルのエネルギーがとても輝いていて素敵だった。
それらが橘家の停滞を打ち破る力の一つになっているのも良かった。


良ちゃんのご両親へのご挨拶のシーンはどちらも泣かされた。また、聞いているご家族の困惑した反応が絶妙で可笑しい。
サカモン、今回も純粋で可愛くて素敵だった。
千佳子さんも良ちゃん相手だととても可愛い。糸原さん、甘えた顔と照れ隠しのきつい物言いの対比が素敵だった。
良ちゃんがお父さんの遺骨にご挨拶している時に、お父さん(の霊…のようなもの)は後ろのテーブルに座っているのだが、時々、千佳子さんの表情を見ているのも印象的だった。千佳子さんが本当に望んでいるのかを見極めようとしていたのかな。
森田ガンツさん、絶対良いお父さんだと思うのに、子供への対し方が本当に不器用そうで観ていて苦笑してしまった。


沙耶香さんの真っ直ぐな強さもとても眩しかった。莉菜子さん、あの突拍子のない姿でも成立して見えるから恐ろしい 笑
あの率直さで、お父さんのことがなくても橘実家に乗り込んできて、幹雄さんとのことは結局解決できたのではなかろうかと思える。 
どもりながら反論する幹雄さんの姿もすごく自然で、近藤さん、子供の頃も可愛いし、良かった。
仕事が自分の役割だからという言い訳辺りが、お父さんに一番似ているという根拠ではなかろうかと思う。


裕ちゃんはダブルキャストでかなりキャラが異なった。それに応じて有紀乃さんも少し変わるので、両方観て良かった。

一輝さんの裕ちゃんは、内気でおとなしくて誠実な感じ。あのふわっとした優しい雰囲気、一輝さん、はまってた。
有紀乃さんは、裕ちゃんを頼ると言うよりは癒しを求めているように見えて、ちょっとその・・・例えると大好きな大型犬を抱きしめているような感じがしなくもなかった(^^;
だから、実はラスト、東京への就職の話は裕ちゃんに何の相談もせずに決めたように思えてしまい、賢一さんとのやり取りで泣かされている気持ちの片隅で微かに苦味も感じていた。
そういうところが家族のズレを産む要因なのでは・・・と勝手に思ったりしてしまった。

一方、陽永さんの裕ちゃんは、じゃれ合ってやんちゃ小僧な面影はあるけれど、有紀乃さん、根底では裕ちゃんを頼りにして甘えている気がした。
何を言っても受け止めて貰えるという安心感があるからか、有紀乃さん、かなり活発な印象になっていたし。
だから就職の件も東京を受けることは話していて、内定をもらったことをまだ伝えていないだけ、と思えて素直に泣けた。

これだけ異なる裕ちゃん相手にどちらにもとても合っていた菅野さん、素敵だった。
あの背中のシーン、裕ちゃんの方はこれで良かったのかなとちと自問自答しているようなところもあったけれど(真面目なんだね)、ここでの有紀乃さんはとても生き生きとして可愛らしく魅力的だった。

菅野さんが二人の裕ちゃんを「花より男子」の道明寺司と花沢類に例えていたが、私は見たことも読んだこともないのでよくわからない。
(ドラマで松本潤さんと小栗旬さんがやってたのはかろうじて知っている)
では私が例えるなら何だろ?と思った時に浮かんだのが「花咲ける青少年」の倣立人(ファン・リーレン)とムスターファ(ユージィンではない方)笑
初日の一輝さんの印象は、ハイジのヨーゼフとか名犬ジョリィだったりしたのだが(すみません(^^;)、楽日を見たらやはりムスターファかなと思った。(やはり意味不明だな、すみません 笑)
あくまでも個人の感想ですので、悪しからず~。

個人的には陽永さんのツンデレな裕ちゃんがかなりツボで、観ていてクラクラしてしまった。

 

役者さん、皆様、それぞれのキャラにしっくりはまっていて魅力的だった。

森田さんのお父さん、すでに書いたけれど本当に不器用で、でもおずおずと千佳子さんにお酒を勧めて、受け入れて貰えるとすごく嬉しそうなのがわかる。
閉じ籠った賢一さんの返事が初めて聞けた時の、飛び付くように近寄っていく姿にも泣かされた。

大沼さんのお母さん、可愛いし強い。良ちゃんのことも大らかに受け止め、ノリの良さも素敵だった。
冒頭のお父さんとのやり取り、可笑しかった。それが後で千佳子さんと繰り返されるのも面白かった。
お父さんと子供達の軋みもしっかり見つめていたのだろうと思うけれど、解決するまでは器用ではなかったのだろうな。


糸原さんの千佳子さん、これもすでに書いたように良ちゃんの前ではとても素直で可愛い。
お母さんに「素直で不器用。」と言われていて、あの豪快なくらいの勢いは魅力的だと思う。
ただし、個人的にはちょっと引っかかるところもあった。
有紀乃さんがふいにコンビニに行ってしまった理由、達治さんが「俺かな。」と言ったせいもあるけれど、自分にも非があるとは最後まで認めなかった。橘家の家族についての有紀乃さんの話も途中で遮り、自分の話に持って行ってしまった。
時々、かなり無遠慮と言うか不用意な物言いをして、それを回収しないところは観ていて勝手に感覚を引っかかれていた。
それも含めて千佳子さんだと思うので、糸原さんは素敵でした、念のため(^^;

玄太さんの達治さんは、コロナ禍で収入を断たれて実家に戻ってきた小劇場の役者さんって、すごい設定…
高校時代?の伸び伸びした雰囲気、一転して行き詰ってきた頃?のゲームをやっている目付き、表情は恐ろしいくらいで、玄太さん凄いな、と感心してしまった。
謝罪すると決めてからの素直さも良かった。

近藤さんの幹雄さん、学会とか言っていたから何か研究職なのかな?
おずおずとしたところや、それなりにフォローしようとするところも確かにお父さんに似てた 笑
沙耶香さんに問い詰められて言葉がうまく出てこないところ(+ハッピーな報告するところのグダグダ感も)毎回すごく自然にああなので感心してしまった 笑
子供時代、賢一さんに抱えられてる姿も可愛かった 笑


菅野さんの有紀乃さん、賢一さんへの父親、兄、姉の対応に失望してしまい、自分でも動けなくなっていたのかなと思う。
家での硬い表情、裕ちゃんとの時に見せる柔らかな表情、ラスト、賢一さんに話しかける時のキラキラした笑顔、と書いていたらまた泣かされそうになった。
裕ちゃんに対してはちゃんと向き合ってあげてね、と思う。特に一輝さんの裕ちゃんの方には。
陽永さんの裕ちゃんは必要な時は彼からしっかり向かっていきそうだけど、一輝さんの裕ちゃんは見守りながらいざとなると自ら引いてしまいそうな気もするので。

サカモンさんの良ちゃんは、もうずるいレベルで真っすぐで素敵な人。
遺骨を前に「ネタをやって。」と言われて「ハードル高くないですか?」と言いつつ、きちんとやるあたり、ボロ泣きさせられた。
それを見てニコニコしているお父さんも目に入るし。

磯部さんの沙耶香さんも率直で素敵だった。「馬鹿だから。」と繰り返していたけれど、理屈じゃないその発想と行動力に幹雄さんは惹かれたのでは?と思うぞ。
大人な役の莉菜子さん、新鮮だった。

裕ちゃんの一輝さんと陽永さんについてはすでに書いてるので割愛 笑
お二人ともそれぞれに魅力的だった。


さて、べーさんの賢一さん。7年前から閉まった扉の向こうに閉じ籠っている。
ほとんど見えないのだけれど、その存在感、お父さんの言葉にだんだん反応していく雰囲気、さすがだと思った。
一度、お顔も見える席に座った時はさらに引き寄せられて泣かされた。
亡くなったお父さんが歩いていくあとから、ほぼ同じ歩き方で出てくる姿、そして回想シーンでの明るい笑顔、家族をまとめる包容力。
やがて動けなくなった背中。
お父さんも賢一さんも最後の台詞は「ありがとう。」なのだよね。


照明、効果音も含めて、演出にも引き寄せられた。
千佳子さんが良ちゃんに、幹雄さんが沙耶香さんに電話するシーン、同じようなやり取りなのに意味合いが全然異なる割り台詞のようになっていて印象的だった。
そうそう、このシーンの前、照明だけで時間の変化を示すところも素敵だった。
シーンが切り替わるところで、画面の砂嵐のような、巻き戻しのような音がするのも面白かった。

ラストの音も印象的。閉じこもっていた殻、shelterではなくてshellを打ち破ろうとする音なのかも、などと想像した。

 


さて、勝手に連想コーナー 笑

有紀乃さんがお母さんに「(賢一さんのことを)お母さんはあんなに心配していたのに、お父さんは何もしなかった。」というのを聞いた時にふと思い出したこと。


劇団チョコレートケーキの「60's エレジー」で、集団就職で林畳店に就職して以来、林ご夫妻に子供のように可愛がってもらっていた修三さんが、畳屋が立ち行かなくなり東京を離れる時に、社長の清さんに一緒に来るように強く誘われなかったことで突き放されたように感じた、と独白していた。
清さんは、頑張って働きながら大学にも入り、信念を持って学生運動にも傾倒している修三さんの未来と自主性を重んじて強くは誘わなかったのだけれど。
一方、奥さんの悦子さんは心配して何度も「一緒に来ない?」と誘っていた。
(結局、修三さんは自分の意志で東京に残ることを選ぶ。)


賢一さんに対して、ご両親もこの二人のような関わり方があったのではなかろうか、と勝手に想像してしまった。
そうすると、最初は会社内でのストレスでそうなったのかと思った賢一さんは、何か社会運動的なことをしていて挫折したのかも?と思ってしまったりした。その方が元気なころの賢一さんを考えると繋がり易い。

そして再度、頑張るということはまたそういうことに向かい合うのか?なんてことを考えて、あの音が閉塞した世界を打ち崩そうとする音にも聞こえてきた。
「世界と戦う準備はできてるか」でのべーさんの役も被ってきて、世界がクロスオーバーしてしまった…

 


(あらすじ)
両親と末っ子の有紀乃、そして7年前から部屋に閉じ籠ったままの賢一が暮らす橘家。

コロナ禍の中、5年間帰ってこなかった長女の千佳子が突然帰省すると連絡を寄越し、さらに次男の達治、三男の幹雄も同じ日に偶然戻ってきた。
コロナ影響で内定取り消しのニュースに「お前も気をつけろよ。」と言う幹雄、「東京は甘くないから。」と言う達治、そして就職祝いを渡しながら「あいつみたいになっちゃダメだよ。」という千佳子の言葉に有紀乃は家を飛び出していってしまう。
夜、水を飲みに来た千佳子は、一人で酒を飲んでいた父:雅彦に誘われ一緒に酒を飲みながら「結婚したい人がいる。」と打ち明けた。
次の朝、雅彦は38.4℃の熱を出し、救急搬送されてしまう。コロナ感染だった。全員が自宅待機になった。

幼馴染の裕太郎の部屋に転がり込んでいた有紀乃は帰宅することを拒否し、裕太郎に頼み込んで彼の部屋で待機することにした。
7年前、自殺を図った賢一に対する家族の対応を見て以来、有紀乃は父や兄姉に対して頑なになっていた。

PCR検査の結果は全員陰性。東京に戻ろうとした千佳子を訪ねて、千佳子の彼:良がやってくる。
お笑い芸人だという良は、いきなり土下座して千佳子が妊娠していることを告げ、「結婚させてください。」と頭を下げる。
皆が唖然としているところに、今度は幹雄の妻:沙耶香が防護服を着てやってくる。
さらに唖然しながら、母:清美は「にぎやかねぇ」と微笑む。

良のお笑いに清美がやたらに受けたり、PCR検査の結果が出るまで防護服を脱がないという沙耶香に戸惑いつつ、それなりに和やかに過ごす橘家。

有紀乃が裕太郎と気持ちを確かめ合った頃、清美からメールが来る。
裕太郎が読んでしばし絶句する。「お父さん、亡くなったって。」

過去の記憶。
千佳子の成人式、達治と幹雄の喧嘩、いつも笑顔で皆をまとめてきた賢一。
その賢一が自殺を図って迎えに行く母親。父もいたはずなのに、父は新聞の後ろ、姿は見えない。


対面も出来ずに火葬された雅彦の遺骨が届き、悲しむ千佳子の言葉に有紀乃が「今更、何を家族ぶっているの?」と突っかかったのがきっかけで、抱えていた問題が表出する。
千佳子が帰省しなくなったのは、5年前の祖母の葬儀の際に達治が香典3万円を盗んだのを目撃し、両親に相談したのに、父はやっていないという達治の言葉を取って、金を埋め合わせすることを選んだからだった。
幹雄は「沙耶香との離婚を告げに来た。」と言おうとしたが、その前に沙耶香が叫ぶ。「私達、ずっとセックスレスなんです!」
沙耶香は「私を見て!」と迫り、戸惑う幹雄を残して飛び出していく。

一人残され、やがて涙を払って歌いながら片づける清美。
雅彦の遺骨を前に、雅彦のウィスキーを飲みながらスクラップブックを眺めているところに千佳子がやってくる。

達治を追い込んだことを謝る千佳子に、清美は「貴女は素直なだけ。そして不器用。」と笑う。
千佳子はスクラップブックを読み出す。
そこへ幹雄もやってくる。清美に「貴方はお父さんに一番似ている。」と言われて考え込む幹雄。
達治がやってきてトイレに入っているところに、有紀乃も来てテーブルで待つ。
出てきた達治は両親と千佳子に謝り「今はこれだけしかないけど。」と2万8千円を差し出す。

スクラップブックを読み続けていた千佳子は、別なスクラップブックも出してきて読み続ける。
不審に思って読み出した幹雄が声を上げる。「これ、俺達のことだよね?」


賢一のことがあってから子供達との向き合い方を考え始めた雅彦は、子供に関する様々なことを切り抜き、メモを書いていた。
ちゃんと叱れなかった達治のこと、失望させた千佳子のこと、達治の舞台、幹雄の好きなアニメ、有紀乃の好きな韓国アーティスト…
賢一にもドア越しに声をかけるようにしていた。
しばらくは返事がなかった賢一から初めて声を聴けた時の嬉しさ。
会話が続くようになったのに自殺未遂の原因を聞いてしまい、また振り出しに戻ったこと。
でも、倒れる前日、千佳子と初めて一緒に酒を飲み、結婚の話を聞けて嬉しかったこと。さらに久しぶりに賢一の声が聞けたこと。
「お前も不器用だったんだな。」
「お父さんの子だからね。」
「ありがとう。」


突然、有紀乃がスクラップブックを投げ付ける。
「最悪だよ、私。死ぬなんて思わないじゃん。」
清美が有紀乃を抱きしめる。
兄、姉が声をかける。

「お父さん、やっと家族が揃ったね。」


9ヵ月後、清美が掃除機をかけ、お腹の大きな千佳子がテレビを見ているところに、買い出しに行っていた有紀乃、裕太郎、達治、良がにぎやかに話しながら帰ってくる。
そこへ幹雄夫妻もやってきて「赤ちゃんが出来ました!」

有紀乃が賢一に報告に行く。あれから賢一からの返事はないが、ずっと誰かが話しかけてきた。
皆が来たこと、そして自分の東京への就職が決まったことを告げて、有紀乃が「また後でね。」と行きかけた時、賢一の声がした。
「就職、おめでとう。コロナなんかに負けるな。」
「俺も頑張るから。」
「有紀乃、ありがとう。」

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どんとゆけ(ネタバレあり)

【主催】渡辺源四郎商店 なべげんわーく合同会社


2020年1月18日,19日観劇(渡辺源四郎商店しんまち本店2階稽古場)
2020年1月26日観劇(こまばアゴラ劇場)


作・演出:畑澤聖悟

キャスト:
青木しの(1年前、栗田和哉と獄中結婚):小川ひかる
北林鋼太郎(青森拘置所の保安課長):三上陽永(虚構の劇団、ぽこぽこクラブ)
栗田(青木)和哉(死刑囚):工藤和嵯
大崎一郎(殺された大崎繁之の父, 息子と孫二人を栗田和哉に殺された):田中耕一(劇団雪の会)
大崎咲子(殺された大崎繁之の妻, 夫と息子二人を栗田和哉に殺された):木村知子
権藤明(咲子が勤めるスーパーの店長):佐藤宏之 

 

1月に観た際に感想を書こうとして書けなかったので、DVDを購入して観返した今、書いている。

いやぁ、改めて観ても凄いお芝居だと思う・・・
観る人によって受け取るものがかなり異なるような気がするし、いろいろなことを考えてしまう。
観ていると気分も頭もごちゃごちゃになってくるので、感想もまとまらない・・・


死刑員制度という先進的なのか逆行しているのかよくわからない制度。(勿論、架空の制度)

当該被害者の遺族が死刑を執行する。遺族がその権利を放棄すれば死刑は自動的に無期懲役に変わる。


それが青森という土地で青森弁で語られる。
これもかなりポイントになっていると思う。その地に残る人の魂、想いが容易に感じ取れる場。

私はなべげんの稽古場で最初に観たので、映像を観ていてもあの独特の異様な雰囲気を思い出す。

あの家鳴り・・・

アゴラでは外の電車の音なども聞こえてまた異なる効果もあったと思うけれど、青森のあの稽古場で聞こえてきた音。
最初は単なる軋み?とさして気に留めなかったが、次に聞こえてきて、違う!これは・・・

ぞっとした。

音と照明、そして役者さんの仕草、表情で滲み出してくる、この家に纏わりついている何か。
人の魂、想い? 怨念?・・・ではなさそうだけれどどことなく禍々しさも漂う。

それをさも愛おしそうに見渡すしのさん。
(実はここでは、既に2人、死刑執行されている。)

怖かった・・・
あの稽古場で観て良かった。


そして、それぞれに強烈な印象を放つ登場人物達。
皆、どこか傾いで見える。

メイド喫茶ですか??な装いで、人目も憚らず和哉さんに色っぽい言動を投げかけるしのさん。
お年寄りの見守り訪問してる民生委員さん?のような明るさと笑顔で、時に恐ろしいほど遺族や和哉さんの気持ちに無頓着にも見える北林さん。
終始おどおどしている気弱な青年に見えるが「なんで死ななきゃならないんですか!」と正面から言われると、いや、だって君・・・と思ってしまう和哉さん。
和哉さんを人として見始めていて迷いも見えるようだが、執行をやめようとは決して口にしない一郎さん。
ギリギリと音がしそうな緊迫感と怒りのパワーに圧倒されるが、それでいて付き合っていた権藤さんにこの場所を教えていたりもした咲子さん。
多分とても普通な人なのだろうが、あの場では良し悪しとかではなくただただ場違いに思えた権藤さん。

 

どの役者さんも観ていて苦しくなるくらい真に迫って感じられた。

どのキャラに沿って観るかでまた随分印象が変わるような気もした。


殺害した3人の写真を目の前に並べられて、オムライスを途中から一気に食べ切る和哉さんの姿。
刺すように睨み付けている咲子さん、にこにこ眺めているしのさん、なんとも表現し難い気分になった。

ゴニンカンゲームの時は一郎さんは明らかに楽しそうだし、もちろんしのさんは和哉さんと一緒で楽しそう、和哉さんもちらっと笑顔になる。
一人だけ当事者ではない北林さんはちと浮いているけれど、まあまあそつなく溶け込んでいる。
そんな雰囲気の中で、咲子さんは必死に怒りの感情を離さないように自らに強いているようにも見えた。
和哉さんが笑顔になるこの一瞬、ちょっとだけ疑似家族的な温もりが感じられて好きだったが、すぐに物凄い勢いでぶち壊される。

 

和哉さんの手紙を読んで迷いも見える一郎さんも、執行を止めるとは言わない。
咲子さんと二人だったからかも。お互いに決意を支え合って(しまって)止めなかった。
どちらが良いとか軽々しく判断出来ないけれど、どちらか一人だったら執行を止めたのかも知れない。


いや、でも、しのさんがいる、か。
彼女が若干けしかけているようなところも感じた。
しのさんは和哉さんが死刑になることを望んでいる。”死刑になる和哉さん”を愛している、のだと思えた。

しのさんの言動はこのお芝居だけを観た時はひたすら謎だった。

でも、これの前日譚として合わせて上演された「だけど涙が出ちゃう」と観たら、少しわかるような気がした。
ただし、これは今回新たに工藤千夏さんが書かれたものなので、同じしのさんと考えるか、パラレルワールドのしのさんと考えるかは観客の自由。
私は同じ世界として観て、過去に淡々と自らの処刑に臨んだ男性に囚われてしまったしのさんが、その一種清廉にすら思える面影を求めて次々と死刑囚との関係を持っているように思えた。

しのさんの「被害者様ってのはそんなにエライものなんでしょうかねぇ。」というのも、何だろう、この人、と思ったが、「だけど涙が出ちゃう」を観たら、彼女からそういう言葉が出るのもちょっとわかるような気もした。
とは言え、これはここでの被害者遺族達には全く関係ないことで、煽られているような気もするだろう・・・


んー、いや、もしかしたらこの家に宿っている何かが彼女をそうさせているのかも知れない。

この家で執行することになったのは和哉さんが望んだからだろうが、それはしのさんが提案した気がする。
もし、しのさんがこの家の何かに囚われ、操られているのだとすれば、それらがここでの執行を望んでいた。
そして、それらが一郎さんや咲子さんの気が変わること(死刑執行を放棄すること)を邪魔していたのかも知れない。
そう思って観るとそんな風にも見える・・・

・・・どうも私は怪奇な歪んだ考え方に惹かれる(^^;

 

私は陽永さんが第一目的だったので、どうしても北林さんの言動に意識が行き、彼の言動の理由を考えながら観ていることも多かった。

基本的に良い人そうなのだが、陽永さんファンの目から見ても、この人の言動には時々ぎょっとさせられた(^^;
「規則ですから。」はいかにも融通が利かない公務員らしくて苦笑するくらいだったが、例えば、当人が聞こえる状態で遺体の運び出しや臓器の話をするか、普通??
何故にそうなのか?と観ながら考えてしまっていた。

彼の言動を理解しようと思うと、死刑員制度が出てくる。

死刑員制度の是非を考え出すと収拾がつかなくなるが、死刑制度は廃止される国が多くなっていたはず。
そんな中で死刑制度を続けるに当たって、死刑判決が出ても執行は遺族に一任されるというのは理に適っているのかもと思ったりした。

人の命を奪うという行為は人間の本能として拒否反応が出ると思うけれど、それを仕事として行わなければならない人がいる。
きついだろう。

それを自らが背負う覚悟を持って遺族が死刑を望むのであれば、それは今の状態よりは合理的なような気がしなくもない・・・かぁ?
彼らが執行したということは周りの方々にも知られることになるだろうし、権藤さんのようにそれに拒絶反応を示す人もいるだろう。
大切な人を失った上に自らも精神的な重荷を背負う、というのは酷過ぎるよな・・・

とは言え、全く関係ない刑務官が仕事としてその重荷を背負うというのもやはり酷いと思う・・・

実はつい先日(2020年5月6日)オンラインzoom演劇という形で「12人の優しい日本人」を観た。
当時日本ではまだ成立していなかった陪審員制度があったらという仮定で書かれた本なのだが、その中で一人、以前にも陪審員をやった方がいて、その時の被告人が有罪となり死刑になったという経験からとにかく無罪を主張する。

北林さんが心情を吐露するところでこの方のことが頭をかすめた。
まだ死刑員制度が出来ていなかった頃、刑務官として死刑を執行していた。
「どん!」という音。 
慣れるようなものではないだろうし、それをやりたくて刑務官になった訳でもないだろう。
生まれる子供への影響は昔話等でよく出てくる話だし、自分への非難は聞き流せても子供に及ぶと反射的に激高してしまう北林さんの心情を思うととても痛かった。

だからこうなった今は規則を盾に、極力、全てを遺族にやらせる。

また、この制度そのものが遺族が死刑執行を止めたくなることを狙って、受刑者の最後の願いや食事に遺族を立ち合せるのでは?などと思いながら観ていた。


それから、北林さんにとってこれは仕事だ。
遺族にとっても受刑者にとってもこれはとてつもなく稀有な状況だろうが、北林さんはおそらく何度も経験している。
まあ、すでに課長の北林さん、通常の場所(刑場のある拘置所ですね)での立ち合いはもうやっていないと思うけれど、こういう特殊な場所での執行には立ち会わざるを得ないのだろう。
毎回毎回様々な人の想いが溢れていることだろうが、それにいちいち反応していたらやっていられない。
何度も繰り返すうちに無意識に感性のどこかのスイッチを切ってしまった結果、あんなお気楽な口をきいたり、献体の詳細を本人に聞こえるところで話してしまったりするのかもと思った。
それでも完全には切れないから喉が渇くのかもと思う。
それでいて、締めるところはしっかり締める。
あの家に纏わりつく何かも耐性が出来ている彼には触れない。術を使わない陰陽師みたいなものか?というのは想像し過ぎだとは思う(^^;

個人的には「(死刑囚が執行前にショックで死んでしまったら)誰が困るんですか?!」と咲子さんに聞かれて、即座に、パンフレットになんて書いてあるかと促してから「法務大臣ですよ。青森県知事じゃないんですよ。だからお願いします。」と答えるところが妙に好き。
彼の立場と諸々の心情を端的に示していた感じがする。


あれを標準語で東京という設定でやったらどうなるのだろう? 
それはそれで興味がある。

 

 

(あらすじ)
被害者遺族が死刑を執行するという死刑員制度が制定されてから10数年が過ぎた頃。

死刑囚青木和哉が、死刑執行のため、獄中結婚した青木しのの家に連れてこられる。
連れてきた保安課長北林の目も気にせず、しのは喜々として色っぽく和哉に話しかける。
やがて、死刑を執行する一郎と咲子がやってくる。
夫と幼い息子二人を殺された咲子は怒りを真っすぐに和哉にぶつける。

人当たりの良い北林が死刑員制度の説明を始める。
規則に細かく、受刑者への配慮を求める北林に咲子が怒り、それをしのが煽り、一郎が取り成す。

2階にある絞首刑の場の準備。

受刑者への最後の食事。彼の望みは被害者3人も大好物だったオムライス。
咲子が無言で並べた3人の写真を前に和哉はオムライスを一気に食べつくす。その姿を笑顔で眺めて世話をするしの。

受刑者の最後の望みはゴニンカンゲームをすること。
かつて家族とやった思い出のゲーム。
それなりに盛り上がり、和哉も笑顔を見せるが、和哉の罪のせいで崩壊した彼の家族の顛末を咲子がぶちまけて場が凍り付く。

受刑者が安らかな気持ちになれるよう読経もしくは讃美歌斉唱。
納得できない咲子はもめるうちに北林が子沢山であることを責めてしまう。
子供のことを言われた北林は激高する。気を落ち着かせてから語る。
この制度が始まるまでは死刑執行は刑務官の仕事だった。北林も執行している。子供が生まれる時に何か異常が出ないか怖かった。
でも、配偶者が妊娠している者、身内に不幸があった者は執行の命令を拒否できる・・・

歌が終わり、執行の場に行こうとするが和哉は動けない。

そこへチャイムが鳴る。
現れたのは咲子が密かに付き合っていた職場の店長:権藤。

権藤と咲子、一郎が一時席を外し、かかってきた電話で献体の話をしていた北林もトイレと言って消えた後、
和哉はしのに「逃がしてください。」と頼むが、しのは笑顔で拒否。
和哉からの手紙を読み上げ、彼の死に向かう覚悟に微笑んだしのは「すでに2人ここで死んでいる、大丈夫。」とうっとりと部屋を見回す。
そして彼女は和哉にキスをする。

戻ってきた咲子は、彼女が人を殺すことを嫌う権藤と別れたらしい。

皆が揃っていることを確認した北林が「どうしますか。やりますか?。」と再度聞く。

「やります。」

和哉はよろよろと立ち上がり、それをしのが支える。
北林が先導して、しのに支えられた和哉が続く。

「行きましょう。」足の悪い一郎を咲子が支えるようにして2階に上がる。

どん、と音がする。

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